Reviews - ディスク・レビュー

佐野元春

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Back to the Street [1980]


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新人離れしたクオリティと完成度を誇るデビュー・アルバム。洗練されたサウンド、若々しい衝動と理想に満ち溢れたリリック、そして捻りがありながらもストレートに響くポップなメロディー。当時のシーンには理解不能とまで言われたというヴォーカライゼーションも今聴くと至ってふつうであるが、いずれにせよ「日本の音楽シーンの水準を上げてやる!」というような気概を存分に感じ取れるハイ・テンションな1枚である。念のために言うが、曲調はさほどテンション高いわけでもない。

Heart Beat [1981]


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デビュー・アルバムの完成度をさらに高めた、充実のセカンド・アルバム。問答無用の代表曲 "ガラスのジェネレーション"、ライヴの定番 "悲しきレイディオ"、のちのポエトリー・リーディング(本人は「スポークン・ワーズ」と呼んでいる)的アプローチの原点と言えそうな "君をさがしている" や "ハートビート" など、ハイライトとなる楽曲群もさることながら「それ以外」の楽曲たちもいちいち素晴らしい出来。初期の元春作品では最も重要なアルバムであろう。

Someday [1982]


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大ヒット・ナンバー "サムデイ" を含む大ヒット・アルバム。初期の元春が追究してきたポップ・ミュージックがここでひとつの完成を見る。中でも8分を超える一大叙事詩 "ロックンロール・ナイト" の壮絶さはちょっと尋常ではない。また、M3 "ダウンタウンボーイ" は日本のポップ・ソング史に残すべき珠玉の名曲だと思う。
アルバムとしては(個人的には)セカンドのほうがいい作品だと思うのだが、日本の音楽シーンにとって重要なのは間違いなくこちらである。ジャケットのダサさにはこの際目をつぶってほしい。

Visitors [1984] ★


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名盤。佐野元春の全作品のうち、もっとも衝撃度の高い問題作である。ニューヨーク録音で、ミュージシャンやスタッフにも現地の人間を起用している。当時のマンハッタンでも最先端だったラップやヒップホップのようなアプローチを元春流に噛み砕き、単なるアメリカの真似ではない、他の誰にも真似出来ない独特の世界観を作り上げている点が秀逸である。
ラップ的要素を取り入れたリズム主体の楽曲であっても彼独自のメロディー感覚が垣間見えるところが大変面白く、きちんと「歌モノ」として聴けるところが素晴らしいと思う。後追いのファンであっても「『Someday』の次(そのうえ『Café Bohemia』の前)にこんなアルバム作ってるのか!」と仰天することだろう。佐野元春というミュージシャンのエキセントリックさが最も端的に表出している作品と言える。

Café Bohemia [1986]


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バック・バンド「ザ・ハートランド」を従えて制作された初めてのアルバム。ジャズやスカ、レゲエ等の要素を取り入れつつも彼本来の「歌を前面に出したポップ・ミュージック」路線に戻った傑作アルバムである。ロンドンでのミックスということもあってかサウンド的には当時英国で絶大な人気を誇っていたザ・スタイル・カウンシルの影響が感じられ、全体的にとても洗練された雰囲気だ。また、アルバム・ジャケットがカッコイイが、ただカッコイイだけじゃなくて作品のイメージとピッタリ一致したデザインになっていると思う。

ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 [1989]


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ロンドンでレコーディングされた傑作 6th アルバム。これまでで最もロック色の強い作品で、そうは言っても一筋縄ではいかない元春節は満載である。ロックだとも言えるし、ポップスだとも言えるし、そのどちらでもないとも言える不思議な音世界。まさに元春ワールドと言ってよいだろう。
後年リバイバル・ヒットとなり元春を大いに悩ませた "約束の橋" を収録している。

Time Out! [1990]


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彼の作品にしては珍しく完成度のあまり高くない作品。その分ハートランドの演奏にフリーさが加味されていて、バンドをやるような人が聴くと楽しいかもしれない(実際、僕はそういう意味でとても好きなアルバムで、このアルバムから数曲カヴァーさせてもらったこともある)。
なお、どういうつもりかは知らないが元春本人はこのアルバムを「ホーム・アルバム」と呼んでいるんだそうである。意味はよく分かりません。

Sweet 16 [1992]


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これはもう、とんでもない傑作である。ヒット曲こそ生んでいないものの、タイトル通りに青春ポップ・ナンバーの洪水また洪水といった様相を呈している青春アルバムであり、ちょうどリリース当時16歳くらいだった(厳密には17歳だったのかな?)僕としては、実はこのアルバムに「★」をつけても全く差し支えがないくらいである。
"ミスター・アウトサイド" から "ハッピーエンド" までの息をもつかせぬ猛烈な展開が凄まじく、"リプライズ" で一旦本編が終了する。この構成も実に素晴らしい。その後にボーナス・トラック的に収録された "エイジアン・フラワーズ"(オノ・ヨーコ参加)と "また明日..."(矢野顕子参加)も重要な聴き所である。
また、音楽そのものとは関係ないけど、チェリー・パイの描かれた CD を取り出すとケースにパイが一欠片残っている絵が現れる、という小賢しいアート・ワークもお気に入りである。

The Circle [1993]


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印象としては「裏・スウィート16」といった感じの作品。前作よりも音作りが全般的にヘヴィになっており、濃密なグルーヴを楽しめる一枚だ。ミディアム〜スロー・テンポのダウナーな楽曲が多いが、アルバムの統一感や楽曲のクオリティが妙に高く、ファンによっては前作よりこちらを高く評価する人も少なくない。もちろん僕も大好きな作品である。特にタイトル・チューンの "ザ・サークル" は、元春作品の中で僕が一番好きかもしれない名曲。

Fruits [1996]


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ザ・ハートランド解散後初のアルバム。僕の周りにはこのアルバムを絶賛する人がほとんどいないのだけど、そのことが不思議でならないくらいの超傑作だ。周りにいないなら僕が絶賛するまでである。素晴らしい! 名盤!
アルバムの方向性としてはかなり王道。全17曲とヴォリュームたっぷりながら決して飽きさせないヴァラエティ豊かな楽曲群と絶妙な曲順が秀逸であり、要所要所でパンチ力のあるポップ・チューンも効果的に散りばめられている。個人的にはアルバムの「構成」に神がかったマジックをすら感じており、特に "十代の潜水生活" 以降の流れは圧巻。『Abbey Road』の B 面にすら引けを取っていないのでは、とさえ思うくらいである。

The Barn [1997]


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プロデューサーにジョン・サイモン氏を迎えてウッドストックで録音された、アメリカ南部の匂いが一杯に詰まった作品。楽曲を書いているのは勿論いつもどおり元春本人だし、演奏しているのも現地ミュージシャンではなくホーボー・キング・バンドのメンバーなのだが、出来上がった音が妙にカントリー・ロックの間合いになっているのが面白い。南部サウンドはお手の物である Dr. kyOn 氏のキーボードも当然冴え渡っているわけだが、特に佐橋佳幸氏のギターが素晴らしい(この人、レコードで聴いてる分にはいいギタリストなんだけどな…)。

Stones and Eggs [1999]


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このアルバムを聴く上でポイントになるのはタイトル・チューンである "石と卵"、そしてリード・トラック "Go4" の2曲だ。この2曲が要注意である。アルバム全体としては基本的にとてもリラックスした雰囲気のポップな作品なのだが、この2曲だけ妙に浮いているのである。「浮いている」というか、「宇宙の果てまで飛んで行っている」と言ってもいいくらい突き抜けているのだ。この極端さがまた佐野元春という人をよく表しているとも言えよう。この2曲がなければ「ゴキゲンな極上ポップ・ロック・アルバム」に落ちついていたと思うのだが、この2曲のせいで「問題作」に近い領域にまで踏み込んでいる。「このくらいでいいじゃん」を決して許さず、その場その場で必ず最善を目指す彼ならではの傑作だ。

The Sun [2004]


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このところベスト盤やリイシュー/リマスター盤、ライヴ盤やスポークン・ワーズといった類のリリースが相次いでいた元春であったが、ついに素晴らしいオリジナル・アルバムが届けられた。前2作のどちらかと言えば実験的な作風から一転、王道ど真ん中のザ・元春ワールドが全開になった渾身の大傑作。3〜4分前後の短い曲が目立つが、その中にギュッと濃縮されたアイデアやエッセンスの豊穣さに、「この人、この歳でまだこんな作品が作れるのか!」と驚かされること請け合いである。ここに来て古巣 Epic を離れ独立レーベルを立ち上げたことなどもそうだが、決して前進することを止めない「佐野元春という人」が過剰なまでに正しく注入された、メチャメチャ濃度の高いアルバムである。
「ここ最近の彼の作品を聴いていなかった」というような古くからのファンにこそ、今すぐ聴いてほしい作品だ。

iTunesThe Sun Studio Edition - EP [2005]

iTunes Music Store 限定アルバム。2001年に無料ダウンロード提供された名曲 "光" を含む全6曲。傑作アルバム『The Sun』収録曲の別ヴァージョンや未発表曲も収録されており、これらがまた実に素晴らしい。ラストの "光" インスト・ヴァージョンも感動的な響きだ。
まずは元春の iTMS 参加を心から喜びたい。Epic で出した盤も早く出せればいいのにね。ソニー何やってんだ。
なお、元春の公式サイトから PDF 形式のデジタル・ブックレットがダウンロードできる。こういうオマケもやけにきちんと作ってあるのが実に元春らしい。